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2008.03.25 (Tue)

S-1 赤い巨兵

――いつからだろう、人を殺すことに抵抗を覚えなくなったのは。
数年前、始めて人を殺したあの日。最初は震えが止まらなかった。
「……イーアに気合を入れられたっけ。」
懐かしい名前を思い出して口元がゆるむ。
父さんや母さんには悪いことをした。俺はとんでもない親不孝者だ、それだけは後悔してる……。
「被告人、何か言いたいことはあるか?」
「これは記録されてるんだよな?」
「あぁ、もちろんだ。テレビ中継もされている。」
「そうか……わかった。それじゃ最後に言わせてもらう。
 人はゆっくりと進化していく。それを急がせる必要など全く無い。
 進化の間に人は過ちを犯し続けるだろう。
 だが、それもいつかは健やかな精神の育みによって越えてゆけると信じている。
 そして、いつしか地球というゆりかごから人類が飛び立つ日が来ることを切に願う。」
「………?
 では判決を言い渡す。元連邦宇宙軍中尉タリス・ゼーイーゲルを…………」





永久とわのゆりかごに…





L3-Area10。
ザイン皇国と地球を挟んで正反対の位置にあるコロニー群。
皇国との戦争が始まってからは同コロニー群にある宇宙要塞サクヤに
連邦宇宙軍の本部がおかれてる。
俺、タリス・ゼーイーゲルはそこで汎用機動戦術兵器、通称“機戦”の操縦訓練を受けている。
いや、明日が訓練課程の卒業式だから『受けていた』ことになる。
卒業試験を終え、無事に課程を終了し安堵に浸っていた俺の気分を一変させる
1枚の紙を教官から渡されたのは3日前のことだ。

「新設部隊の召集命令……さっそく辞令ですか?」
「そうだ。お前の試験結果を見てレオンハルト中将が直々に推薦されたそうだ。」
「……はぁ。」
「何を他人事みたいな声だしてるんだ。中将の推薦なんて名誉なことだぞ!
 これでエリート街道まっしぐらじゃないか、ガハハハ。」
「え、えーと、これを読むに卒業式の日に即入隊式ですか?」
「みたいだな。詳しいことは知らんが例の『Re:計画』に関係する部隊の召集らしいぞ。
 運が良ければ新型機戦に乗れるかもしれんな! うらやましいぞ。」
『Re:計画』
開戦当初のザイン皇国に対する機戦開発の遅れを取り戻し、戦局を巻き返すための機戦開発計画。
俺たち士官候補生の間ではただの次期量産機戦の開発計画だけだろうという噂だったけど、
部隊を新設するってことは量産機戦の開発だけじゃなさそうだ。
「戦局を変えるかもしれない計画に関係してるわりに、ずいぶんとのんびりしてるんですね。」
「うーむ、お前が卒業して士官になるのを待ってるとも考えられる。」
「自分の卒業を……ですか?」
「中将がお前を推したのが卒業試験後だからなぁ。急な決定で向こうで少し混乱があったんだろう。」
「そういうものなんですか? 軍も。」
「中将の推薦が突然すぎたんだろう。俺もこの辞令を伝えるよう言われたのはおとといだ。
 まっそういうことだ。いきなりの戦場で小便もらすかもしれないが、頑張れ!」
「も、もらしませんよ!」
「とにかく、伝えることは以上だ。明後日、しっかりと中将に顔見せて来い。」
「え!? 明後日?」
「おいおい辞令に書いてあるだろ。卒業式前に一度呼び出されてるぞ。」
「……あ、ホントだ。」
「はは、そんなに気負うな。緊張しすぎると体に毒だぞ。」
「は、はい。それでは失礼します!」

「えーと、中将だから『OF-8』っと。ここか。」
中将の階級符号であるOF-8のプリントされたプレートのあるドアの前に立つ。
わき然り手のひら然り、汗が尋常じゃない。
「緊張するなってのは無理だろ……」
相手は本来なら直接対面することなど無かったであろう軍のトップだ。
「宇宙軍第58練習部隊所属タリス・ゼーイーゲル4級准尉候補、出頭しました!」
自動ドアが開いた先にいたのは顔面に刻まれたしわが厳格さをひきたてている白髪の老人。
白地の軍服に施された多くの勲章が彼の階級の高さをうかがわせる。
レオンハルト・コルバーグ中将。
連邦軍で最大規模を誇るといわれる宇宙方面軍の総司令官だ。
部屋の隅のデスクでは秘書官だと思われる女性士官数人が
見事な手さばきで膨大な数の書類を分けている最中だった。
「待っていたよ、ゼーイーゲル君。立ち話もなんだ。そこに椅子がある、掛けたまえ。」
「は、はい。失礼します。」
ガラにもなくすごく緊張してますです、はい。
中将は写真で見たことがあったとはいえ、そのオーラというか雰囲気には威圧される。
それに加え、個人の執務室にしては広い室内。
卓球台を縦に2つ、横に6つは並べられると思う。
現に中将や自分が座っているのは部屋の中央に置かれた大きな机の椅子だ。
椅子の前に端末が設置されているあたり会議用なんだろうと推測。
「ゼーイーゲル君。まずは急な辞令すまないと思う。」
「いえ、閣下の推薦とのことで至極光栄です。」
「そう言ってもらえると助かる。君の卒業試験のデータを見せてもらってね。
 模擬戦では勝率100%。シュミレーションでは我が軍のエース、
 フェリックス・ヴァルター少佐のネス=カスタムに勝ったこともあるそうじゃないか!」
「あ、ありがとうございます!
 でも、あれは運が良かっただけです……勝ったと言っても1回だけですし。」
今の自分の顔は死んでもみたくない。照れて赤くなってるか、にやけてるかのどっちかだ。
中将の手前、表情は崩してないつもりだけど保証は全くできない!
「ではな、本題に入る前のこれを見てもらいたい。向こうのモニターだ。」
と指差されたのは壁に設置された巨大モニター。何インチあるんだ、これ……
そして映し出されたのは現主力機戦F-30 ネスのデータだった。
ただ教育課程で見たデータの他に、新素材の装甲加圧実験や改良DPSの設計図っぽいものとか
機密だと思うようなデータも少なからず混じっていた。
「連邦国家は少しのんびりしすぎだ。
 機戦は数よりもその性能、そして操るパイロットの熟練度のほうが重要な要素なのだ。
 そんなことも理解できない政治家どものおかげで開戦で大敗をきしたのだよ。
 ……いや、機戦うんぬんよりもザインの力を侮っていたのが一番の原因だな。
 開戦から3年。ようやく次期主力機戦の開発がスタートした。遅すぎると思わんかね?」
「は、はい。そう思います。」
「そんなにこわばらなくてもいい。しっかりと自分の意見が言えるもののほうが私は好きだな。」
「はッ…。何故すぐに機戦の開発に着手しなかったのかは自分も疑問に思っていました。
 もっと早く対処していれば地上の侵攻はもっと抑えられたと思います。」
「ふむ、そうだな。私が見込んだだけはある。中将相手にそれだけ言えればたいしたものだ。」
「ありがとうございます。」
「聞いていると思うが、私は君を『Re:計画』の要となる部隊へ入隊させたいと考えている。
 次期量産機戦の試験機を扱う部隊だ。
 主にデータ採集が目的となるが、もちろん実戦にも参加してもらう。
 どうかな? この“頼み”を聞いてもらえるかな?」
機密データまで見せておいて白々しい……。
あくまで部隊への自主的参加にしようとしてるのはわかるけど、ここまであからさまだとなぁ。
かといって断れるわけがなくて……。
「……光栄です! 自分が『Re:計画』に関われるとは夢にも見なかったです。
 是非その部隊へ参加させてください!」
自分で言っていて嫌になるけど仕方がない、か。
「うむ。いい返事が聞けてよかった。それではまた明日、君の卒業式が終わったあと
 正式な召集をかける。今日はしっかり休みたまえ。」
「はッ! では失礼します。」
これからどうなるんだ、俺…………。

ベッドルームまでの帰り道、軍のトップと会ったことへの緊張がまだとけない。
「らしくない。らしくない。」
自分に言い聞かせるようにつぶやく。
『Re:計画』がどんなものか想像できないけど、決まってしまったからには任務を全うするしかない。
それが明日から正式に軍人となる自分の第一使命だ。
「……らしくない。らしくない。」
「あれ〜、タリスじゃん!」
「んぁ? あぁテッサか。」
通路の反対側から歩いてきたのは同級生のアシリア・テスタロッサ。
金髪をサイドポニーでまとめ、スタイルもまぁまぁいい彼女は
士官候補生の中ではそれなりに人気らしくちょくちょく告白もされてるらしい。
案の定全員玉砕してるらしいけど。
テッサは同級生だけど俺より2歳年下の18歳。
オペレーター専攻だけど、共通講義のときにわけあって知り合って、
馬があってしまったために一緒にいることが多い。
「コルバーグ中将のとこに行ってきたんでしょ? どうだった?」
アンビリーバボーな体験を聞くかのような好奇に満ちた目で聞いてくる。
少しは軍のお偉いさんに会うっていう心労を考えて欲しい。
「厳格そうなじいさんだよ。他は……とにかく部屋が広い、会議室並みに。」
「ほほぉ。メモメモっと。」
そういって手のひらにメモをとる仕草をしてるテッサ。
「んで、呼び出された件はなんだったの?」
「それは禁則じk……軍機だよ。」
「あはは、もう軍人さんになった気分なの〜?」
「茶化すなよ。すげー緊張したんだからさ。」
「ごめんごめん。私も早く軍機って使ってみたいなぁ。」
「部隊に就けば嫌でも触れるようになるだろ。戦争だからね……。」
「こうやって世間話してるとここが軍で、外では戦争してるなんて信じられないよね。」
「あぁ……そうだね。」
「さてと。私はこれから野暮用があるから失礼するよ♪」
「おぅ。それじゃ明日の卒業式でまた。」
「うん。ばいばい〜」
テッサは俺が来た道のほうへ歩いていく。
……あっちはほとんど部屋とかないけど、どこに用事あるんだ。気にしても仕方ないけど。

「うーんと……あっ、ここだ! 『OF-8』。間違いないよね。
 タリスはああ言ってたけど、実際はどうなんだろ。ちょっと不安だな。
 って今さら悩んでても意味無いよね。1回深呼吸っと……ふぅー。
 宇宙軍第61練習部隊所属アシリア・テスタロッサ一等軍曹、出頭しました!」


そして、今に至ると。
卒業式も無事に済まし、あとは指定された召集場所へ行くだけだ。
式を行った機戦格納庫ではみんなこれからの軍の生活に希望や不安を抱えてるのが見てわかる。
自分も含め、ここにいる奴らは人殺しに行くんだと思うと嫌悪感に支配されそうになる。
「……不安でいっぱい、なのかな。」
雑念を捨てて召集場所へと急いだ。

指定されたブリーフィングルームには一番早く着いたらしく、俺の他に人影は見えない。
「部隊は新設……全員が俺みたいな卒業生なのかな。」
いや、それはない。
戦局を変えるための計画に未熟な人間で部隊を編成するわけがない。
ということは、前線にいる人たち、しかも腕の良い兵士を異動させるってことか。
そう考えると俺にもいい勉強にもなりそうだ。
少し経つと徐々に士官たちが集まり始め、
中には顔見知りの士官どうしもいるようであちこちから会話が聞こえる。
「な……!?」
そんな中、見慣れた人影を見つけて驚いた。
「テッサ……?」
「あ、タリス。いまさっきぶり〜♪」
「いや、いまさっきぶり〜♪って……テッサも辞令もらってたのか!?」
「うん、まぁね。でも、よかったよ〜。おりゃ!」
「何がだ? って、おい!!!」
人前、しかも他人ばかりの前でいきなり抱きつかれた……どうすればいいんだ。
いや、待て、俺も軍人の前に一人前の男であるからして、
その……ほどよい大きさの胸のふくらみがだなぁ…………
あたふたしてると近くで様子を見ていた一人の士官が絡んできた。
「おいおい、お二人さんよぉ。見せつけてくれるね〜」
どこにでも冷やかしが好きな人間はいるよなぁ、おい。
俺より歳は少し上だと思われる士官。
威圧感に似た感じがあるのは、背の高さでタリスたちを見下ろすかたちになっているから
だけじゃなくて、ほおにある傷とか死地を経験してきた様相だからか。
「見ると…准尉と軍曹。2人とも士官学校上がりか。」
「はッ、今日過程を終えて卒業しました。」
「そうか、だから格納庫のほうがうるさかったのか……。ところで、お前たちはどういう仲なんだ?」
「ただの友達です! それ以上でもそれ以下でもないです!」
おぉ全力で否定したぞ、テッサめ……。
そういう関係じゃないのは事実だけどけっこうヘコむよなぁ。せめて友達以上恋人未満と。
「ははは、そうかそうか! じゃあ俺にもチャンスはあるわけだな!
 俺はジーン・トレシー少尉だ、よろしくな。
 さて、名乗ったんだ。君の名前も教えて欲しいな。」
「えと、アシリア・テスタロッサです。」
「自分はタリス・ゼーイー…」
「誰がお前の名前を聞きたいって言った。
 そうか、アシリアちゃんか。いい名前だな、これからよろしく頼むぜ。」
「ぐッ……」
抑えろ、俺。テ、テッサの肩に手をまわしてるからって俺には関係ないことだ。
(-△-;)こんな顔してジーン少尉殿を睨んでいると
ブリーフィングルームの扉が開き、秘書官を従え中将が入ってきた。
「うむ、集まっているようだな。」
あらためて時計を確認すると召集予定時間になっていた。
入ってきたコルバーグ中将に対し集まった全員が立ち上がり敬礼をする。
「……軍か。」
講習のときとは違い、とてつもなく緊張感が漂っている。
さっきまでふざけていたジーン少尉も別人のような鋭い顔をしている。
「やっぱプロなんだな。」
静かになったブリーフィングルームで中将が話し始める。
「ご苦労、みんな崩してくれ。」
全員がほぼ同時に姿勢を崩す。余談だけど、俺はこのときの揃った音が好きだったりする。
「集まってもらった理由は既知のことだと思う。
 今日標準時刻21:00より君たちには連邦宇宙軍司令部直轄第19独立試験部隊、
 プランコード『ヒヒイロカネ』として活動してもらうことになる。
 作戦中は試験機戦の帰還を最優先。データを持ち帰るだけではダメだ。
 諸君に預ける機戦は全て新型の試験機戦であり、機戦そのものが軍機である。
 機戦パイロットは万が一、ザイン軍に鹵獲される恐れがある場合は自爆し、軍機を守れ。」
「はッ!」
「先に機戦のマニュアルを預ける。名前を呼ばれた者は前へ。
 ロンド・ぺプラー大尉、アナ・オーマニー少尉、ジーン・トレシー少尉!」
隣にいたジーン少尉が前のほうへ出て行く。その後ろ姿は少し大きく感じた。
いつかは自分も一人前のパイロットになれるんだろうか……
「アナ少尉……女性なのか。」
女性のパイロットは珍しいわけではないが、進んでなったという話はあまり聞かない。
パイロット適正が予想以上に高く、やむなくしている人がほとんどだと聞いたことがある。
「あー、タリス・ゼーイーゲル4級准尉、イーア・シュティール中佐!」
呼ばれた!!!!
って、そんな驚くことじゃないんだが、
考え事をしていたので体が一瞬ビクンとなってしまった。恥ずかしい……
なんか周りがざわついてる。俺のビクンが笑われてるのなら死にたい。。。
「君たちが搭乗する機戦は二人乗りだ。頑張ってくれたまえ。」
………今なんと!?
二人乗り? 相棒になるのはイーア……女性か。って、中佐!?
どんな人なんだろうかと横目でイーア中佐殿を見て愕然とする。
「が、ガキ!!!???」
横に立っていたのは子ども……。さっきの周りのざわつきの原因はこの子だと確信した!
年齢は2桁いってるのかも怪しい感じだ。身長なんて俺の腰より少し上くらいだし。
ただ、さらさらなブロンドの髪の毛、くりっとしたモスグリーンの瞳、ほどよい大きさのきりっとした唇。

……かわいいじゃねぇか(´∀`*)ポッ

ポッじゃねーよ、俺!!!!!!
まて、俺はロリコンじゃない。ってか、こんなのに変な思いを寄せるってペドフィリアとかいう部類だろ。
よく見ると瞳はモスグリーンというより萌木色か。
だからそんなことは問題じゃねー!
「あ、あの、失礼ですが中佐は本当に中佐なんですか?」
「うん。」
「お歳は……?」
「8さい。」
「………。えーと、職業は?」
「れんぽーうちゅーぐんちゅーさ。きせんのえーすぱいろっと。これでわかったです?」
「……はい。」
「あー、……コホン」
「あっ…」
コルバーグ中将の前だとすっかり忘れてた。
「続けてもいいかね?」
「は、はッ! 失礼しましたぁ!!!」
「は〜い。」
「イーア。ここは軍なんだ、返事はしっかりしてくれないと困るぞ。」
「はい。ごめんなさい……です。」
「い、いや、わかればいいんだよ。1回で治るなんていい子だね、イーア。」
な、なんだ!? 口調がめちゃくちゃ優しいし、頭なでてるぞ中将閣下!!!
もしかして変態じじいか……いや、親戚の子どもと考えたほうが自然か。
……って、全然自然じゃねー!
どうして軍にこんな小さな子どもがいるんだ!?
「二人乗りであるイーア中佐たちの機体はもちろんだが、
 ロンド大尉たちの機戦もマーベライズ社の新型OSを搭載している。
 パイロットはこれから第6格納庫で整備されている各機戦にてシュミレーションを行い
 操縦系の微調整をして来い。残りの者の担当は今から読み上げる。」
「それでは、お先に失礼します、中将。」
「22時までに機体の癖をつかめ。作戦開始は予定通りに行う、遅れるなよ!」
「はッ!」

格納庫へ向かうエレベーターの中でマニュアルに一通り目を通す。
「なんでわざわざ2人操縦にしたんだろ……」
「ちょっとぉ! わたしにもみせてよー」
お腹のあたりをグーでパンチされてます。ここは本当に軍隊なんだよな……
「わかりました、わかりましたって! だからパンチするのやめてください。」
「もっとはやくそうしてればぱんちしなかったのに。」
「いや、言い始めたときからパンチしてたじゃないですか。」
一応敬語を使っておくのが賢明か。相手は中佐、俺は准尉。差がありすぎる。
マニュアルに書いてあることが読めてるのか激しく疑問だが、イーアは熱心に中を見ている。
「ジーン少尉たちのはどんな機体なんですか?」
「……ん。あぁ、マーベライズの試験機だな。
 どうやら新型DPSを搭載してるみたいだし、新しいOSってのも気になるな。」
「俺たちの3機は元となる機戦は一緒だが、それぞれ特化してる要素があるようだな。
 俺の近接戦闘特化型。アナ少尉の高機動戦闘特化型。ジーン少尉の支援・遠距離特化型だ。」
「ただ……名前が、ねぇ。『アイアンメイデン』って悪趣味な名前ね。
 縁起も悪いし。マーベライズは何考えてんのよ、まったく。」
「鉄の処女、か。」
「戦闘には名前なんぞ関係ないだろ。戦闘は運と実力だけだ。
 タリス准尉は今日卒業したてらしいな。
 戦場で信じられるのは自分と自分の機戦だけだ。忘れるな。」
「は、はい!」
会話を聞いてると、この人たちは俺が体験したことのない“戦場”を経験してるんだと強く感じる。
「俺もあんな風になれるのかな……」
「おーい、たりす! まにゅあるよみおえたから、かえす。」
「ん? あ、はいはい。」
「『はい』はいっかいでよろしい!」
「………はい。」
8歳児にしかられた。妹にも怒られたことないのにッ! ……妹いないけど。
そういえば俺の乗る機戦はなんていう名前なんだろ?
えーと、『アイオーン』。アイアンメイデンよりはマシか。
ってか、どういう意味があるのか知らないけど。
「『あいおーん』っていうのは、こだいぎりしあごで“じだい”。
 または、ぐのーしすしゅぎで“しんのかみさま”のなまえ。そんなこともしらないの?」
「普通に生きてると勉強しないことだからね……」
おそるべき8歳児だな、こやつ。
軍にいる時点で何かあるんだろうってことはわかってたけどな、あはははは……
「おい、そろそろ見えてくるぞ。これから世話になる機戦が。」
「って、ちょ……マジかよ。」
ジーン少尉が絶句したのは無理も無い。
灰色を基調にしたアイアンメイデン3体に対し、1体だけ赤い機戦がそこにはあった。

――アイオーン
今この時であり、歴史であり、永遠であるもの。
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2008.03.15 (Sat)

S-0 プロローグ

―― 旧世紀末
それは何の前触れも無い、本当に突然のことだった。
ある日、グリニッジ標準時00:34、衛星軌道上の国際宇宙ステーションの
監視レーダーに観測された“それ”は、巨大な宇宙船のようだった。
有史が始まって以来、世界中の人々がその存在が認識した初の外宇宙との接触。
その来訪者に人々は興味し、また恐れもした。
彼らはどこから来たのか、どのような姿をしているのか、
この太陽系には何の用事があるのか……
地球の人々が見守る中、外見は自分たちと同じ人間そのものである彼らは
アステロイドベルト帯から資源を調達しラグランジュポイントに「コロニー」を建造し始めた。
彼らの技術力を目の当たりにし人々は驚愕し不安を感じた。

――その技術力をもって地球ここに攻めてくるのだろうか?

意思の疎通ができないまま数年が過ぎた。
地球では万が一に備え、各国で軍備の増強が続いていた。
それゆえ後進国は言うまでもなく有力国までもが疲弊し、世界経済は深刻な状況に陥っていた。
一方宇宙では彼ら、通称VISITERがラグランジュ5に小さなコロニー群を作っていた。

……地球人類が外宇宙人類と接触してから十数年。
代表の言語統一を果たした地球、宇宙双方は正式に会議の場を設ける。
数十時間におよぶ会議の中で人類はVISITERの地球への居住を彼らの技術提供を条件に認めた。
ここに地球圏統一連邦国家の成立とともに、
人々は二千年以上続いたキリストの世紀Anno Dominiに別れを告げ、
宇宙という新天地への希望を黄金世紀Golden Century(G.C.)という名に表した。
人類は母なるゆりかごたる水の惑星を飛び出し、星降る大海へと生活の場をうつしていく。






黄金世紀になり、もうすぐ一世紀が経とうとしている。
G.C.初期の徹底した言語教育のおかげで地球人とVISITERの意思疎通は早い段階で完成し、
地球側の要求した技術協力もかなり早くから行われた。
特に、G.C.0047に完成した擬似光合成(DPS)はそれまでのエネルギー枯渇問題を一気に解決させ
コロニー開発ラッシュの起因にもなった。
VISITERによって最初にコロニーの作られたL5-Area20『サクラサマス』を筆頭に
各ラグランジュポイントにいくつものコロニーが作られ、
数十基のコロニーをひとくくりにしAreaと呼ぶようになった。
G.C.0080現在、Area1〜20までのコロニー群がL1〜5に散らばっている。
連邦国家は宇宙移民を推奨し、今ではおよそ100億の人が宇宙で生活している。
人々にとってコロニーという閉鎖空間の中で子を産み、育み、
そしてそこで死ぬことが当たり前の時代になりつつあった……
しかし、一方で元々人口の少ないVISITERたちは技術士など
有益と判断された者以外は地球から最も遠く離れたL2-Area4コロニー群へと追いやられていった。
地球からの物資供給が受けにくいエリア4は他のコロニー群に比べ生活水準が低い。
G.C.0074、2月。
エリア4コロニー群は連邦国家に対し供給物資の運搬回数の増加を請願。
同年4月に連邦議会はこの要求を棄却。
さらに治安不安定地域として軍の駐留を強行。一部で反抗市民の虐殺も行われる。
G.C.0076、8月。
エリア4の中心コロニーであるルサールカにて宗教団体ザイン教がバックボーンである
カッコン党が自治議会の第1政党となり、エリア4コロニー群の連邦国家からの独立を表明。
ザイン教の教主であるザイン・ジ・アシェルの名をとり、『ザイン皇国』を宣言した。
突然の独立宣言に対し連邦国家が手をこまねいている間に
ザイン教の私設軍はL2の連邦軍基地を次々に制圧、駐留軍は壊滅する。
G.C.0077、1月11日。
連邦議会はザイン皇国を国家と認定したうえで宣戦布告をする。
ここに人類史上初となる宇宙を戦場にした戦争が幕を開けた。
ザイン軍は連邦軍主力機戦“ネス”よりも数世代先をいく機戦“デウス”を投入。
平和に興じていた連邦のパイロットが戦闘経験のあるザインパイロットに適うはずも無く
連邦は初戦から大敗をきした。
月面都市チェリノがザイン皇国に協力の意を示したことで、
ザイン軍は月-L4間にある小惑星要塞レデンツへ侵攻を開始。
同年4月30日、後にレデンツ決戦と呼ばれる大戦が幕をあけることになる。
この動きは早々から連邦に予見されており、レデンツ宙域に大艦隊による防衛線を張っていた。
その数、ザイン軍艦隊のおよそ5倍。
機戦の性能、パイロットの熟練度の違いはあれど、
この圧倒的な戦力差に誰もが連邦の勝利を疑わなかった。
……だが、ザイン軍には切り札があった。
大型発電用DPS約7000枚を動力源とする試作決戦用殲滅兵器グラニ。
コロニー並みの大きさを持つ人類史上初の実戦用ビーム兵器である。
ただし、ビームを兵器として安定して用いる技術はまだ確立途中だったため
一発限りの、しかも発射が成功するかどうかもわからない、賭けともいえる切り札であった。
そして、ザイン軍はその賭けに勝った。
グラニの放った一撃はレデンツ宙域に集結していた連邦艦隊を焼き尽くした。
集結していた艦隊の80%が壊滅、残り20%も戦闘続行は不可能という大打撃を与えられ
連邦軍は歴史的大敗をきしてしまう。
その後、レデンツをほぼ無傷で手に入れたザイン軍はそこからL4へと侵攻。
4つあるエリアのうち3つが協力を、1つは完全中立を宣言することになる。
こうして制宙権のおよそ半分強を手に入れたザイン軍はついに地球への侵攻を決定。
G.C.0078、2月1日。
ザイン軍はレデンツ決戦にて使用済みとなったグラニを
地上へ落とすという『ネガフォク作戦』を実行に移す。
連邦軍は未だ補給が間に合っていない中、これを阻止せんとL1と地球の間の宙域へ艦隊を集結させる。
必死の抵抗のかいあってかなりの部分を削ったが、結局グラニは南アメリカへと落ちてしまう。
落下阻止作戦の失敗によって連邦軍の信用は急降下。地上各地で反乱が起きる。
そんななか、間髪いれずにザイン軍は地球降下作戦を開始。
地上では不安定な情勢なこともあり、ザイン軍を歓迎する地域も現れる。
G.C.0079、7月3日。
約1年半でザイン皇国は地上の1/3を支配下におさめる。ここでザイン軍は一時休戦を申し込んだ。
連邦にとってはまたとない軍備を整えるチャンスであり、即座に外交テーブルについた。
同年8月15日。月面中立都市ワシントンM.Cにて、休戦協定が結ばれる。
連邦は再軍備に勤しみ、ザイン皇国は軍備を整えつつ支配地域の住民の好感度をあげる政策をとる。
G.C.0080、1月1日。
連邦国家本部のあるチューリヒで行われていた新年祝賀パーティーにて、
連邦議会長アルフレッド・バタールがエリア5出身の青年に銃殺される事件が発生。
皇国側は連邦議会からの糾弾に対し青年との事実関係はないと主張。
しかし、それを連邦側が納得するはずがなく休戦協定は破棄される。
再軍備もほとんど終わっていた連邦軍だが、ザイン軍の防衛線は硬く小競り合いが続き
戦況は膠着状態に陥ることになる。
時にG.C.0080、3月。
連邦宇宙軍総司令レオンハルト・コルバーグ中将を中心にして
次世代主力機戦開発計画、プランコード『Re;』を発動。
中立コロニーであるL5-Area19、L3の連邦軍基地サクヤにて次世代機戦の開発が始められる。
物語は一人の青年の人生を大きく狂わしながら始まろうとしていた……



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